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建寿御前日記 第五段 「建春門院の御日常」 [【建寿御前日記(本)】]

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今回は七条殿での生活とか、建春門院の日頃の様子とかです。
例のごとく褒めちぎってます。基本、女房が主人について書くときは褒めるんですが、建春門院は高貴な出でもないので、読んでる方は何だかな~って感じがしなくもないです。

【第五段 本文】

よきほどなる御けなりにて、常にいでさせおはします。冬は、ふたへおりもののみつおんぞなどに、御小袴、夏も、折につけたるすずしのおんぞどもの、よになく美しきにてぞありし。このごろ多くみゆるこんなどは、夏も冬も、みぐるし物とてかくさせ給ひき。

貝おほひ、いしなどり、らんごなどやうの、あそびごとをも、つれづれならずもてなさせ給ふ。さぶらふ人も、かつはうちたゆまざらんためなるべし。御まへゆるされぬ人は、ちかくさぶらふ人々の、「御所になる」とつぐるに、たちのきて、障子のとにゐる。

夏は扇どもとりちらして、たうじさぶらふ人々、ひとつづつ給はりなどす。かやうの御あそびごと、はてぬれば、やがて、あなくるしとて、うちふさせ給ふ折もあり。かりそめに御とのごもりたりし御さまなどまで、ありがたく美しうもおはしまししかな。よそにおしはかりしは、ことごとしく、よそほしかるべきほどの御身ぞかし。夏など、うちおどろかせ給ひて、あつやとて、袷(あはせ)の御小袖の御むねをひきあけて、ふたふたとあふがせ給ひし御すがたなどまで、たれもすることの、あなこのましと見えしは、ただ、人によることなめり。あいきゃうこぼるるばかりとかや物語などに書きつけたるは、かやうなるにや、あながちに、にほひうつくしげなる御ぞは、顔のいふよしなく白きに、御ひたひがみの、はらはらとこぼれかかりたりしひまびまに、御色あひのはえて見えしなどは、この世のまた、さるたぐひをこそ見ね。

大方の世のまつりごとをはじめ、はかなきほどのことまで、御心にまかせぬことなしと、人も思ひいふめりき。まことに、おはしまさでのちの世の中を思ひ合はするにも、かしこかりける御心ひとつに、なべての世もしづかなりけるを、ただあけくれは、あそびたはぶれよりほかのことなく、しばしのほど見まゐらせ聞くほども、思ふことなく、うちゑまるるやうにのみもてなして、あかしくらさせ給ひし御心のほども、のちに思へば、人にことなりけり。

【訳】

美しい普段着をお召しになって、いつも(東の台盤所へ)お出ましになられる。冬は、二陪織物(地模様の上に別の糸で他の模様を織り出した織物)の三御衣(三枚重ねの衣)などに、御小袴(をお召しになり)、夏は折々に合わせた生絹(すずし・生糸で織った布)のお着物などが、見たこともないような美しさであった。このごろ多く用いられる紺色などは、夏も冬も、見苦しいものとしてお使いなさらなかった。

貝おおい(貝をつかってやる神経衰弱)、いしなどり(小石をたくさんまいておき、その一つを投げて、それを受け止めつつ他の石を拾い、先に石を拾い終わった方が勝ち)、乱碁(おはじきのような遊び)などのような遊びごとをも、楽しくお開きになる。お仕えする女房をも、一つには退屈させないためである。お目通りを許されていない人は、近くにお仕えしている人たちが「女院のお出ましです」と告げると、立ち退いて、障子の外に座る。

夏は扇などを沢山広げて、折からお側に控えている女房は、一つずつ頂いたりする。このような御遊びごとが終わると、そのまま「ああ苦しい」と言って、少し横におなりなさる時もある。ちょっとお眠りになったご様子などまで、滅多にない程の美しさでいらっしゃたことだ。

(お近くからではなく)遠くから想像したところでは、物々しく立派なほどの御身分である(が実際、お側で拝見する女院様はとても愛らしいご様子であった)よ。夏など、ふと目をお覚ましになって、「ああ、暑い」とおっしゃって、袷(裏地の付いた着物)の御小袖の御胸を引きあけて、ぱたぱたとお扇ぎになったご様子まで、誰でもすることだが、「ああ、素敵だ」と思われたのは、ただ、人によることと思われる。可愛らしさがこぼれるばかりであるとか物語などに書きつけてあるのは、このようなことであろうか、とても美しくそまったお召し物(をお召しになり)、顔が何とも言えず白く、御ひたい髪がはらはらとこぼれかかった(その前髪の)隙間から、お顔の色が引き立って見えたことなど、この世にまた、そのような例を見たことがない。

一般の御政治をはじめ、ちょっとしたことまで、お心通りにならないことはないと、世間の人も思い、語ったようだ。本当に、お亡くなりになってからの世の中を(ご生前と)思い合わせても、優れていたお心一つで、すべて世の中も静まっていたが、ただいつもは、様々の御遊び(にお心をくだかれる)だけで(政治への介入などはおくびにも出されず)、ちょっとの間お顔を拝見し、お声を聴く時も、心配事がなくなり、自然とこちらが微笑まれてくるようにばかり振る舞われて、お過ごしになったお心の(深さの)ほども、後になって思うと、普通の人とは比べ物にならなかった。

【コメント】

今回はちょっと長かったです。

前半では、女院がどんな着物を好んだか、御前での遊びの様子などが描かれます。
後半は、女院の美しかった容姿のついて、優れた心映えについての記事です。

訳を作って気が付いたんですけど、この日記、思ったことをテキトーに書いてるように思ってましたが、結構しっかり構成されてるんですね。
さすが文学エリートです。

前半に「このごろ紺色が多く使われているが、女院はお好みではない」とあります。紺色は男の人が良く使ったとウィキペディアとかには書いてありますが、女の人も結構使ってたってことでしょうかね。面白いですね。
次に羅列してある平安の遊びについては、貝おほひはまだしも、その他の遊びの面白くなさそうです。ホント平安時代に生まれなくてよかったです。

次に、夏に扇をたくさん広げて、控えている女房達にくれるという記述があります。お勤めの途中にこんなのあったら嬉しいですよね。夏だから配ったのは蝙蝠扇でしょうか。
何となく女の人は檜扇ってイメージがありましたが、女の人も夏は蝙蝠扇なんですね。

更に、とにかく女院がかわいいという記述が続きます。
寝てても可愛いし、「熱いなぁ」と言って胸元を開いて扇であおいでても可愛い。色白で、真っ黒な黒髪が額にかかっており、前髪の隙間からこぼれる額の白さが何とも言えず綺麗だと。
使い古されたような美人の形容ではありますが、建春門院は美人だったのは本当らしいので、さもありなんって感じです。
ここで笑えるのは「小袖の胸もとを引きあけて扇で扇ぐのは誰でもすることだが、そんななんてことない仕草でも素敵だと思えるのは、ただその人がやるからいいのだ。」ってところです。つまりは「美人がやるからいいんで、そうでない人がやってもダメですから」ってことで。西施が眉をひそめると美しいが、美人じゃないひとが真似しても顔面がますますやばくなるだけですっていう例の故事?を思い出します。

最後の段は建春門院の心映えについてです。
「そんなことないだろ~」って突っ込みたくなるような美辞麗句がならべられてますが、まぁこの美辞麗句まで含めてお約束って感じですね。「あそびたはぶれよりほかのことなく(何てこともないお遊びをなさるだけで(政治には介入しない))」ってことですけど、「いやいやいや」って突っ込みたくなります(笑)。
そう言いながらも「大方の世のまつりごとをはじめ、はかなきほどのことまで、御心にまかせぬことなしと、人も思ひいふめりき。(政治だけでなく、ちょっとしたことまで、心通りにならないことはないと世間のみんなも思っていた)」ってことですから、語るに落ちてます。女院のパワー恐るべし。

【健寿御前日記(本)】・・・長くて疲れました。


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溺愛猫的女人

こんばんは

お疲れ様でしたm(_ _)m すごいわ、nakonakoさん♪ 

後世の人に読まれることを考えて、残るものはちょっと脚色したのかも知れませんね(¬¬;)

by 溺愛猫的女人 (2012-05-16 19:58) 

なおこ

こんにちは~
nakonakoさん 本当にすごいですよね。
まず 読んで さらに コメントを もう一度読んで 考えてみて それから また 訳とコメントを読みました。(汗/痛)
でも ほんと褒めちぎってますよね。 普通の人とはくらべものにならない お心の深さの表現が すごい。 自然とこちらが微笑みたくなるような人なんて・・・ 
あ~でも このお褒めも やっぱお決まり文句なんですかね。
"とりあえず" 生のように? (うそですよ~/笑) 
by なおこ (2012-05-16 20:48) 

ぴー太郎

こんばんは♪
シンハービール沢山飲みましたね(笑)

私、時代物の衣装とか装飾品とか大好きなんです!!そういった博物館とか
あると絶対に入ります♪
当時の女性たちがどんな衣装で、どんな装いをしていたのか、覗けるものなら
覗いてみたい~~!
そんな週刊誌的発想をしつつ、読ませて頂きました!
by ぴー太郎 (2012-05-19 00:07) 

nakonako

ピー太郎さん、
お料理が辛くて美味しいからいっぱい飲めちゃうんですよね。
お天気もよくて気持ち良かったです。
装束とか風俗とかって面白いですよね。
特に建寿御前は装束に関する記述が多いです。
覗けたら楽しそうです♪
by nakonako (2012-05-19 11:10) 

nakonako

溺愛さん、
女房の日記も「他人に読まれる」を前提にしてるものが多いみたいなんですが、建寿御前の場合はお兄さんの定家が校正をやってて、それについての解説とかを読むと結構考えられてるんだな~って感じです。
今回は長くてホント疲れちゃいました。
日記ものは本当に楽しいです。
樋口一葉のとかも面白いですよね。

なおこさん、
何度も読み返させてしまって申し訳ありません(><)
「訳」の部分をもっとラフにしちゃったほうが読みやすいんだと思うんですけど、そうすると不正確だし、難しいところなんですよね。
まぁ、不正確って言っても、その訳自体が素人テキトウ訳なのですが(笑)
枕草子にも、定子さまのお顔を見ると嫌なことはすべて忘れちゃうとか書いてありましたよ。
by nakonako (2012-05-19 12:07) 

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